Dream

Dream

ある時、読んだ本の中にこんな一節がありました。
「本当に美味しい料理を食べた時と言うのは、どんなに悲しくても、どんなに辛くても、どんなに寂しくても、その料理を口に入れた瞬間、誰もが思わず笑ってしまうものなんです。

僕もそんな鞄を作りたい。

僕の鞄を手に取った瞬間、思わず笑ってしまう。元気になってしまう。そしてどこかへ出掛けたくなってしまう。そんな鞄を作りたい。そう心に響きました。

それまではどんな気持ちで鞄を作って来ただろう。

ある時まではただただ鞄を作るのが楽しくて、その作る楽しさを伝えたくて、そんな気持ちで作っていた気がします。

そのある時と言うには、数年前に大病で倒れてしまった時の事です。

幸いにも大した事が無く回復する事が出来ましたが、それでも右半身に痺れと痛み、ほんの僅かですが麻痺が今でも残っています。

倒れた後しばらくは、元気になって行くことが嬉しくて、回復する事だけで精一杯で、何も考えずに鞄を作って来ました。またもう一度鞄を作れることがありがたくて、、、、、

しかしだんだん体調が良くなってくるに連れて、僕は何の為に鞄を作っているのだろう。僕が作る事に何か意味があるのだろうか。ただ作っているだけでは無いのか。そして僕は世の中の為にみんなの為に何か役に立っているのだろうか。そんなことばかりを考える様になってしまいました。

そんな時に出会ったのがこの一節でした。

衝撃的でした。

でも折角こんな素敵な言葉と出会ったと言うのに、今度はそれをするにはどうしたらいいのか。何をしたらいいのか。どれから手を付ければいいのか、、、。何も思い付か無いまま時間だけがどんどんと過ぎて行く。漫然とした思いばかりが大きくなって、破裂しそうになって、、、。

もう辞めちゃおうかな鞄屋。

そんな思いがこの数年間頭の中を占領していました。対面的にはいつもニコニコしながら。

今年に入ってなぜかその日は何も考えずゆったりと自分の作った鞄たちを眺めていた時です。今まで作って来たアイデアや工夫の数々が急に目に飛び込んで来たのです。

それらはいつもお客様に伝えている事だったし、新しい鞄をデザインをする時も当たり前のルールとして何も考えずに取り入れて来た事です。

でもなぜそれが今更の様に目に入って来るのか、とても不思議な感覚でした。

鞄を一つ一つを手に取って見ているとふっと蘇ってきたのです。その様々なアイデアや工夫を考えるきっかけになった事がらや、それを思いついた時のワクワク感。そしてそれを実際に使って喜んでくれたお客様の笑顔!

そうなんです。すっかり抜け落ちていたのです。その事が。

ずっとやって来ていたのです。みんなが笑顔になってくれる為の鞄作りを。

でもそれが本当に出来ているとは思っていません。まだまだこれからです。もっともっと素敵なアイデアや工夫をして、もっともっとみんなを笑顔にしたい。

病気や怪我で少し笑顔を忘れてしまった人も、悲しいことや辛いことがあった人も、何かの原因で外に出るのが嫌になってしまった人も、いえいえそんな大層な事では無くてちょっと凹んでいる人も、目一杯元気な人も、僕の作った鞄で思わず笑ってもらいたい。そして大きく手を振って外に出掛けてもらいたい。

これからはその事をもっともっと掘り下げて行きます。もっともっと笑顔にして行きます。Ko’da styleの鞄を使って下さる人に寄り添って行きます。

それがDream。それが僕の今の夢です。

 

2018 春
Ko’da style こうだかずひろ